トヨタ自動車は、昨年秋にコミュニケーションロボット「KIROBO mini」、先日はリハビリ支援用のロボットの発売を発表しています。
トヨタがロボットを開発した狙いについてのコメントを聞くと、「事業の定義」と「顧客は誰か」というマネジメントの基本について考えるヒントになります。
トヨタはなぜ個人向けロボットという全く経験したことがない領域の製品の開発に着手したのか?
コミュニケーションロボット「KIROBO mini」は高さ10センチと小型で、ユーザーと雑談などが楽しめます。 きっかけは『愛車』という言葉だったようです。開発した狙いについてこう話しています。
- 「車は『愛』という言葉が付く数少ない工業製品。人が愛車とパートナーになるように、心を通わせることができる存在を目指した」
- 「人と寄り添い、心を動かす製品を、車とは別に作る」
また、今年4月12日には、脳卒中などの患者が再び歩けるように支援する、リハビリ支援用のロボットを実用化したと発表しました。高齢化社会の進展をにらみ、医療・介護などの分野で人と共生するパートナーロボットを新たな事業の柱に育てるとしています。開発の合言葉は、
- 「すべての人に移動の自由を」
トヨタのロボット開発には、「愛」と「移動手段」というキーワードをベースにした、「人と寄り添い、心を動かす製品」を、車とは別にまた作るという狙いがあるようです。
以上のようなトヨタのロボット開発についてのコメントを考えれば、ピーター・F・ドカッカーの「マネジメント」に関する次の言葉が思い出されます。
マネジメントは「事業の定義」から始まる。「われわれの事業は何か」を問うことこそ、トップマネジメントの責任である。 企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。したがって「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。 |
引き続き、ドラッカーは「事業の定義」と「顧客は誰か」に関しての成功例・失敗例について述べています。第4次産業革命が進展していく中で、「事業の再定義」が必要となる時が来るかもしれません。その時のヒントとなる事例と思います。
1930年代の大恐慌のころ、修理工からスタートしてキャデラック事業部の経営を任されるにいたったドイツ生まれのニコラス・ドレイシュタットは、「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」といった。この答えが破産寸前のキャデラックを救った。わずか二、三年のうちに、あの大恐慌時にもかかわらず、キャデラックは成長事業へと変身した。 モータリゼーションの勃興の中で、「鉄道」から抜けられなかったアメリカの鉄道業は、「輸送業・運搬業」という大きな枠に事業を再定義することができなかったため、衰退の一途をたどった。情報を運搬すれば、通信事業にもなっていたかもしれない。 アメリカのハリウッド映画は、テレビの登場によって極度の営業不振に陥った。それは、映画屋さんたちが、映画そのものに愛着を覚え、テレビを軽蔑しきって何も手を打とうとしなかったからだ。しかし、ハリウッドは、そのまま手をこまねくことなく自らドメインを変えた。「映像を提供する」産業から「総合的なエンタテイメント空間を演出する」産業に変身することに成功した。 |
マーケティング近視眼とは『事業の定義』を限定してしまうことにより、柔軟で長期的な行動を取れなくなることです。
身近では、牛丼や回転寿司チェーン店などの隆盛・衰退に、それがよく表れているように思われます。