今回は、ビジネスの基本と原則の最重要項目の1つである、「自社の事業は何か?」についての考え方を紹介したいと思います。
『マネジメント-基本と原則』(P.F.ドラッカー著)は、組織として成果を上げるための物事の見方、考え方、行動のエッセンスを解説している本です。
そのなかで、「 あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、『われわれの事業は何か。何であるべきか』を定義することが不可欠である。マネジメントをするためには、まず初めに、『事業の定義づけ』から始めなければならない 」と説いています。
一方でまた、ドラッカーは次のようにも語っています。
「事業を定義することは難しい。苦痛は大きく、リスクも大きい。しかし事業の定義があって初めて、目標を設定し、戦略を発展させ、資源を集中し、活動を開始することができる。業績をあげるべくマネジメントできるようになる」。
確かに、自社の事業を定義することは難しく、苦痛は大きく、リスクも大きいかもしれませんが、マネジメントするための最初のステップですから、挫けずに「自社の事業は何か?」について熟考してみてください。
・・・「マネジメントとは、何にもまして、ものの考え方である。」(ドラッカー)
ドラッカーは、「事業は何か?」を考える上で必要な7項目を取り上げていますので、各要点を以下に紹介します。
1、われわれの事業は何か
自らの事業は何かを知ることほど、簡単でわかりきったことはないと思われるかもしれない。鉄鋼会社は鉄をつくり、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。しかし実際には、わかりきった答えが正しいことはほとんどない。 「われわれの事業は何か」を問うことこそ、トップマネジメントの責任である。 企業の目的としての事業が十分に検討されていないことが、企業の挫折や失敗の最大の原因である。逆に、成功を収めている企業の成功は、「われわれの事業は何か」を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされている。 企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。したがって、「われわれの事業は何か」との問いは、企業を外部すなわち顧客と市場の観点から見て、初めて答えることができる。 2、顧客は誰か 「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない。すなわち顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタートしなければならない。 したがって、「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。この問いに対する答えのよって、企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。 3、顧客はどこにいるか、何を買うか 次のような過去の事例がある。 ● 顧客はどこにいるか 1920年代にシアーズ社(販売事業者)が成功した秘密の一つは、顧客がそれまでとは違う場所にいることを発見したことだった。農民は自動車を持ち、町で買い物をするようになっていた。 ● 顧客は何を買うか 1930年代の大恐慌のころ、GMキャデラック事業部の経営責任者は、「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」といった。 4、いつ問うべきか ほとんどのマネジメントが、苦境に陥ったときにしか「われわれの事業は何か」を問わない。だが、苦境に立つまで待っていたのでは、マネジメントとしてあまりに無責任である。この問いは常に行わなければならない。 しかし、真剣に問うべきは、むしろ成功しているときである。成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。新しい現実をつくりだす。新しい問題をつくりだす。 5、われわれの事業は何になるのか 大きな成功をもたらしたものさえ、やがて陳腐化する。したがって、「われわれの事業は何か」を問うとき、われわれの事業のもつ性格、使命、目的に影響を与えるおそれの環境の変化は認められるかを同時に問い、現時点でいかに組み込むかを考えなければならない。 6、われわれの事業はなんであるべきか 「われわれの事業はなんであるべきか」との問いも必要である。現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、創造することができるかもしれない。この問いを発しない企業は、重大な機会を逃す。 「われわれの事業はなんであるべきか」との問いに答えるうえで考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化であり、イノベーションである。自らによるイノベーションと、他者によるイノベーションである。 7、われわれの事業のうち何を捨てるか 新しい事業の開始の決定と同じように重要なこととして、企業の使命に合わなくなり、顧客に満足を与えなくあり、業績に貢献しなくなったものの体系的な廃棄がある。 「今日の顧客に価値を与えているか、明日も顧客に価値を与えるか」「今日の人口、市場、技術、経済の実態に合っているか」。 この問いを体系的かつ真剣に問わないかぎり、またこれらの問いに対する答えに従って行動しないかぎり、エネルギーは昨日を防衛するために使われる。そして誰も、明日をつくるためどころか、今日を開拓するために働く時間も資源も、意欲も持ちえないことになる。 |
次回のコラムでは、事業の定義に関する過去の成功事例と失敗事例を紹介します。
参考:『マネジメント[エッセンシャル版]-基本と原則』 P.F.ドラッカー(著)