「事業の定義」に関しての過去の事例をみると、その重要性をあらためて思います。
「事業の定義」の設定の仕方によって将来の発展が大きく変わるという事例を以下に説明します。この件に関しても、少し古くなりますがドラッカーの取り上げる事例が参考になります。
▼米国の鉄道会社
モータリゼーションの勃興の中で、「鉄道」から抜けられなかったアメリカの鉄道業は、トラックなどの陸上輸送との競争に勝てず、衰退の一途をたどりました。
もし、「輸送業・運搬業」という大きな枠に事業を再定義することができたなら、情報を運搬する通信事業にもなっていたかもしれません。
▼ハリウッド映画
一方、アメリカのハリウッド映画は、これもテレビの登場によって極度の営業不振に陥りました。業界関係者が映画への愛着が強すぎて、テレビを軽蔑し何の対策も講じなかったからです。
しかし、ハリウッドは自ら「事業の定義」を変え、「映像を提供する」産業から「総合的なエンタテイメント空間を演出する」産業に変身することに成功しました。
日本の場合を考えてみると、「高度な技術による高付加価値製品」にこだわり続けて業績悪化に至った家電業界は、やはりどこか早い段階で「事業の再定義」が必要であったと思われます。
身近なところでは、牛丼チェーンの吉野家の苦境が思い起こされます。牛丼ならばダントツ日本一で、外食産業の雄と思われていた吉野家が、BSEのおかげでアメリカ産牛肉を輸入できず大打撃を受けました。
『牛丼』が事業の定義というイメージが自他共に強烈だったため、牛丼以外の何もできませんでした。牛丼ではなく『丼』にすれば、豚丼その他メニューで苦境をしのげたかもしれませんが、しかし(*注)ブランド・アイデンティティを傷つけてしまう可能性もありました。
その合間をぬってすき家などの競合が、『牛丼』にこだわらない種々の『丼』の提供で業績を伸ばしてきました。
このように「事業の定義」の仕方によって将来の発展が大きく変わってしまう可能性があります。
AIなどに代表される第4次産業革命の進展によってビジネス環境が大きく変わりつつある今日、「自社の事業は何か?」を問い続けることが、中小企業経営者にとって最重要課題といえます。
「ブランド・アイデンティティ」とは? 自社を、あるいは自社が提供する製品やサービスを、「顧客にどう思われたいか」を明確にすることです。 |
次回のコラムでは、「ブランド・アイデンティティ」に関する記事を書きたいと思います。
参考:『マネジメント[エッセンシャル版]-基本と原則』 P.F.ドラッカー(著)